【Health Science Blog】Vol.2「脳卒中からの歩行リハビリの最先端トレーニングって何ですか?」

コロナウイルスの蔓延により慢性的な運動不足に苛まされているのは、大袈裟ではなく世界人類全体の話になります。
感染拡大を抑えるためには、人との関わりを減らし、外出を可能な限り自粛することが世界各地で推奨されてきました。日本は、比較的規制が緩やかですが、欧米諸国では厳しい罰則の伴う外出制限などが行われてきました。
私が住むメルボルンでも、ロックダウンは数カ月以上に長期化し、自宅から5㎞圏内という条件で運動と日用品の買い物のみ1時間以内という時間制限付きで許されていた時期もありました。(そのかいあって、11月からは感染者がほとんど出ていない状況が続いてきましたが・・2020年12月31日現在)
前回のお話で、外出を自粛することで起こりやすい「ビタミンD欠乏症」のお話をしましたが、それに関連して高血圧・心臓への負担・悪い血液循環などが脳卒中を引き起こす可能性が増えます。
脳卒中は、脳の血管が詰まってしまったり破裂することで、死亡の原因として常に上位に挙げられています。一命をとりとめた場合でも、様々な障害が残ることがあります。
運動機能に関連した障害としては、麻痺が残って歩くことがままならなくなることが多々あります。こうした症状は、効果的なリハビリを行うことで改善されることがありますが、今回は最先端の科学トレーニングについてお話させて頂きます。
特に、課題となっている問題としては、脳卒中からのリハビリ中につまずいて転んでしまうことが挙げられています。脳卒中が、比較的高齢者に多いことから、転倒による二次被害を可能な限り予防することが大切になります。
 
今月(2020年12月)にBrain Sciencesにて掲載されたオープンソースの論文を紹介します。
この論文は、私の研究チームがAustin HealthやWestern Healthという病院グループと共同で行ったものであり、最先端のテクノロジーを駆使したBiofeedback(バイオフィードバック)トレーニングのパイロット・テストになります。以下が、論文となります。
Nagano, H., Said, CM., James, L., and Begg, R. 2020. Feasibility of using foot-ground clearance biofeedback training in treadmill walking for post-stroke gait rehabilitation. Brain Sciences, 10 (12), 978.
コチラから全文を確認できます。
片麻痺性の脳卒中は、歩行能力に悪影響を与えリハビリ中に転倒のリスクを上昇させる。つまずきは、転倒の最大の原因であり「足が宙を前方に移動しているときに、地面からの距離をある程度維持できている」ことにより、そのリスクは軽減できる。

図1 つまずき予防のバイオメカニクス:Minimum Foot Clearance (MFC)
Biofeedback1

歩いているときにつまずく場合は、大きく分けて二つに分類することができる。
① 歩いていたら気づかなかった障害物につまずく
② 障害物を乗り越えようとして失敗する
このうち②のケースは、「障害物を認識しているにも関わらずつまずく」ということになるので、普通に歩いていてつまずくのとはメカニズムが異なる。
今回は、①歩いていたら気づかなかった障害物につまずく に限定して考えた場合、図1のMFCと書かれている地点での足の地面からの高さを維持することが重要になる。
つま先が地面から離れた直後の方が、足自体の高さは低いが、足の速度が低いことや、反対の足がバランスを支えやすい位置にあることから、転倒には至りにくいと考えられている。
よって、MFCを
① 高くする
② 毎ステップできるだけ同じ高さを維持する
③ 左右差を無くす
の3つがつまずきによる転倒予防に役立つとされている。

図2 つまずき予防のためのBiofeedback(バイオフィードバック)トレーニング
biofeedback2

動作解析システムを活用したつまずき予防のトレーニングとして、Biofeedback(バイオフィードバック)がある。(図2参照) 脳卒中患者のつま先にマーカーをつけ、足の動きを前方のモニターに映し出し、どのくらいの高さに維持するかの目標を決めて、毎回その目標の間につま先の高さをコントロールする練習を行う。(図2の2本の平行線の間にMFCが入るようにする)
このパイロット・テストでは、6人の脳卒中患者に対して全8回のバイオフィードバック・トレーニングを1カ月という期間で行った。トレーニングの前、直後(1カ月後)、そしてトレーニング終了から一カ月後 の三回を計測比較したところ、バイオフィードバック・トレーニングが脳卒中患者のつまずきのリスクを下げる可能性が示唆された。
現在、さらに大規模な実験データを分析していて、2021年中には成果の論文発表を行う予定です。
「予防」は医療制度がひっ迫している状態においては、非常に大切なテーマです。
なので、脳卒中にならないように、適度な運動、日光浴、脹脛のトレーニング、バランスの取れた食事などを心掛けることが、コロナによる自粛生活においては大切になります。
しかし、それでも万一脳卒中になってしまった場合は、こうした最先端トレーニングを行うことでつまずきのリスクを下げることが大切になります。

バイオメカニクスのテクノロジーに基づき開発されたISEALインソールも、MFCを上昇させつまずきによる転倒のリスクを軽減する効果があります。ぜひご活用ください。

(文章:Victoria大学 長野放博士)

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【Health Science Blog】Vol.1:「日光を浴びないとどんな問題があるの?」

2020年は、コロナウイルスとの戦いに追われた1年となりました。

そして、ワクチンの開発など明るい話はあるものの、2020年の年末を迎えた現在、未だに出口がはっきりと見える状態ではないのが現実です。

厄介なのは、感染を避けるためには様々な自粛を行う必要があるということです。

私事になりますが、私も2020年のほとんどをオーストラリアの自宅兼オフィスにて独りで過ごすことになりました。

私が住んでいるメルボルンでは、外出に対して厳しい規制がかかり、ピーク時には「1日に1度自宅から5㎞圏内にて(1時間以内で)買い物と運動をする以外は自宅から出てはいけない」という状況が数カ月続きました。

これにより、コロナウイルスの蔓延は2020年の年末メルボルンのあるビクトリア州においては、封じ込めに大きく成功したと言えますが、他の健康被害が生まれてきました。

例えば、筋力低下、血液循環の低下、メンタルヘルスの低下など、自宅で閉じこもることには大きな弊害もあります。

その中、私自身も体調を壊して病院で診断された症状が

「ビタミンD欠乏症」です。

日光に当たることでビタミンDを得ていた私たちが自宅などで自粛をして日光を浴びないと生じることになりやすいビタミンD欠乏症ですが、どのような健康被害が生まれるのでしょうか?

そして、その対策としてはどういったものがあるのでしょうか?

今回は、まとめ論文から抜粋して情報をお届けいたします。

原著論文に関してはオープンソースとして閲覧可能です。

Nair, R., and Maseeh, A. 2012. Vitamin D: The “sunshine” vitamin. Journal of Pharmacology and Pharmacotherapeutics, 3 (2): 118-126.

ビタミンD欠乏症は、世界人口の半分くらいに影響を与えています。その理由は、ライフスタイルや環境問題などによって、太陽の紫外線が皮膚にあたることで作られるビタミンDを減らすことが挙げられます。

ビタミンD欠乏症によって生じるリスクは以下の通りです。

心臓病
骨折
転倒
自己免疫疾患
インフルエンザ
タイプII 糖尿病
うつ病
大腸がん
高血圧
肥満
認知症
パーキンソン病(可能性あり)
また、寿命が縮むことも報告されています。これらを避けるために、ビタミンDのサプリメントを取ることが推奨されています。

ビタミンDにはD2とD3があり、人が日光を浴びて精製するのはD3となります。D2は、鮭やサバなどの魚や太陽を浴びたキノコなどから摂取できます。ビタミンDは、リンパに吸収され静脈に入ります。肝臓と腎臓の酵素によって、ビタミンDは変化し、カルシウムとリンの吸収を、それぞれ30-40%・80%ほど向上させます。

日焼け止めクリームを塗ると、(これについてはまだ結論は出ていないものの)95%程度ビタミンDの精製を抑制してしまいます。また、肌の色が濃い人の方が、ビタミンDの精製にはより日光を必要とします。

食事だけでビタミンDを補うことは難しく、日光に当たることが大切になります。宗教上の理由や日焼け防止のために日光に当たらないことが、ビタミンD欠乏症を引き起こす可能性が高くなります。

以上、簡単なまとめになります。詳しく知りたい方は、オープンソースになっている論文をご参照ください。

外を歩かないと日光には当たりにくいですが、上記にもあったように転倒や骨折のリスクが高くなってしまうビタミンD欠乏症。

アウトドアのウォーキング時には、ぜひISEALインソールをご活用ください。

(文章:ビクトリア大学 長野放博士)

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