外出する機会が少なくなると、歩行能力が低下するリスクがありますが、認知力と併せて歩行能力は私たちが生活をしていくうえで非常に大切になってきます。
いつもお話をしていることではありますが、こうした基礎能力の低下は可能な限り早く察知して、さらなる低下の予防、そして可能であれば向上をさせていくというのが、健康促進の基本となります。
バイオメカニクスの研究をやり続けてきた一部のマニア集団(私のことになります 笑)を除けば、パッと見て、その人の歩き方が良いか悪いかを判断できる方法が大切になります。
今回は、ある程度誰でも実践できるか「簡易歩行診断方法」を紹介します。
「基本歩行データ」は、踵とつま先の位置情報と時間情報に基づいて定義できる方データとなります。英語では、「spatio-temporal parameters」などと表現されていて、「spatio = spatial」は位置を表し、「temporal」は時間を表します。
SpatialはSpace(スペース)の派生であり、Temporalは「テンポ」の派生になるので、覚えやすいかと思います。
これらも100分の1ミリ秒以上の正確さを求めるのであれば3D動作解析システムの使用などが必須になってきますが、ストップウォッチと足あとさえあれば、大雑把な測定ができるのも特徴です。
基本歩行データに関しては、様々な文献がありますが、
データが表す一般的な傾向
改善方法
の2つに絞って今回はお話させて頂きたく思います。
Holman, JH., McDade, EM., Petersen, RC. 2011. Normative spatiotemporal gait parmaeters in older adults. Gait and Posture, 34 (1): 111-118.
Nagano, H., Begg, R., Sparrow, WA., Taylor, S. 2013. A comparison of treadmill and overground walking effects on step cycle asymmetry in young and older individuals. Journal of Applied Biomechanics, 29 (2): 188-193.
■基本歩行データって何?
以下の基本歩行データを測定することで、その人の歩行能力がある程度分かります。
歩行速度:歩いている速さです。研究レベルだとm/s(1秒で何メートル進むか)が使われますが、日常生活ではkm/h(1時間で何キロ進むか)を使われることが多いのが特徴です。
歩幅:かかと着地から反対足のかかと着地までの前後距離。
歩隔:かかと着地から反対足のかかと着地までの左右距離。
両足立脚時間:かかと着地から反対足のつま先離地までの時間。
さらに細かく調べるのであれば、
片足立脚時間:反対足のつま先離地からかかと着地までの時間。片足で立っている時間。
ステップ速度:つま先離地からかかと着地(遊脚期)に足が前方に進む速度。平均値と最大値を見る方法がある。
も役立ちます。
他の基本歩行データは、基本的に重複している部分が多いので、それのみで新しい意味を成すとは言えませんが・・・
遊脚時間:つま先離地からかかと着地までを遊脚期と言い、遊脚時間を測ることもあります。しかし、これは反対足(立脚期にある足の)片足立脚時間と全く同じになります。
立脚時間:これは、上記の片足立脚時間に両足立脚時間を加えたものです。
ステップ時間:一歩(1ステップ)にかかる時間になります。かかと着地から反対足のかかと着地までの時間となりますが、これは「両足立脚時間+(反対足)片足立脚時間」となり、特に新しいデータとは言えません。
さらに、細かい情報ではありませんが、ストライドデータを取る人もいます。
ストライドとは2歩(2ステップ)を意味するので、ストライドに注目すると両足間の差異などを知る術が無くなってしまうという欠点があります。
GPSで移動距離を出して、それをかかった時間で割った場合は、左右差を区別するのが難しいので、そういった場合においてはストライドデータで表すことしかできなくなります。
(例)
ストライド・レングス=右歩幅+左歩幅
ストライド・タイム=右ステップタイム+左ステップタイム
このように「かかと着地」と「つま先離地」の位置情報とタイミングから、様々な歩行データを取ることができて、総称して「基本歩行データ」と呼びます。
かかと着地とつま先離地のエンジニア的な定義が大切になってきますが、専門的になりすぎるので、この点につきましてはまたの機会にお話します。
■基本歩行データが表す歩行機能
(1) 歩行速度の低下は歩行能力の低下
一番わかりやすいのは、歩く速度です。歩行能力が低下すると速く歩くことができなくなります。
(2) 歩幅の低下は歩行能力の低下
歩行能力が低下して歩行速度が低下した場合、歩幅の減少が必ず伴うといっても過言ではありません。歩幅は物凄く長くなったけど、ステップの数(ケーデンス)が減った、ということは、ほとんどありません。
(3) 歩隔の増加はバランスの低下
足と足の横幅が拡がっている人は、左右のバランスが悪くなってきているので、以前お話したBase of Support(BOS)を横に拡げることでバランスを安定させようとしていることが考えられます。(BOSの詳細はコチラ)よって、バランスに問題のある時に見られる歩行の変化の一つです。
(4) 両足立脚時間の増加はバランスの低下
歩隔の増加に併せて、バランスが悪くなると、必然的に片足で立っている時間を短くしようとします。つまり、両足立脚時間の割合が増加することになります。
■基本歩行データ改善の方法論
上記の基本歩行データの変化により、歩行能力の低下や向上を測定することができます。ここでは、これらのデータの改善方法について簡単にお伝えします。これらを行うことで、最も基本となる「歩行速度の増加」に繋がることが期待されます。
(1) 歩幅の上昇
大腿四頭筋の強化:腿の前面の筋肉を鍛えることで、歩幅の増加が期待できます。
前脛骨筋の強化:脛の前の筋肉を強化することで、かかと着地がべた足で行われることが回避できます。べた足のかかと着地は歩幅の減少に繋がるため、しっかりとかかとから踏み込むようにしましょう。
脹脛の強化:賛否両論ありますが・・・脹脛を強化することで、足の蹴りだしが強化され歩幅が増加すると言う人もいます。しかし、過度な足の蹴りだしは足を痛める可能性があるので、これ一つに頼って歩幅の増加を目指すことは避けるべきでしょう。
(2) 歩隔の減少
線の上歩行:一番簡単な方法は、一本の線の上を歩く練習を行うことです。一本の線の上を歩くことで、歩隔0の状態が維持できます。これは、バランスを取るのが難しくなるため注意は必要ですが、こうした状況下で歩くトレーニングは、バランス向上にも役立ちます。
(3) 両足立脚時間の減少
リズム歩行:例えば手を一定のリズムで叩いたり、メトロノームを使ったりしながら一定のリズムで足踏みをする練習を行います。これをできるだけ早いペースで行っていくことで、必然的に両足立脚時間は下がってきます。ただし、これは練習としては効果的ですが、実際に歩くときはたくさんステップを踏めばよいというわけではないので、「トレーニング用」と割り切ってリズム歩行を行うことが大切になります。
以上、簡易な歩行測定の方法をお伝えしました。また、問題点が見られた時の改善方法も簡単なものを上記の通りお伝えしています。
また別の機会に、さらに具体的で詳細な方法をお伝えしていきます。
最後に、歩行トレーニングの一環として、正しい足の使い方を学ぶ必要があります。ISEALインソールは、履いているだけで正しい足首の使い方を練習することができるように設計されています。その秘密は、インソールの角度が勝手に足首をベストな動きに導いてくれるということと、インソール上の突起を足がなぞることで、自動的に正しい足の使い方がされることにあります。ぜひ、お試しください!
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文責 Dr Hanatsu Nagano