運動は、どの年齢層においても
大切になってきますが、競技性の高いスポーツではなく健康促進を目的とした運動において、中高年層の人たちにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
もちろん、漠然と「運動は健康に良い!」と理解している人は多いと思いますが、今日はもう少し詳しく、どのような運動をすると何に良いのかを、運動生理学の観点から紐解いていきます。
(ちなみに私は、本職はバイオメカニクスですが、Austin Healthというオーストラリアの病院団体から名誉生理学者にも認定されています!)
■高齢化が進む社会において
準備が必要な自分のための健康促進日本は世界でも最大の超高齢社会であります。医療費は増加する一方で、苦肉の策として医療費の負担を増加させたり、年金がもらえる時期が遅れたり、額が減ったり・・・これらは、何かしら抜本的な改革が無ければこれから先も続いていく傾向になります。
抜本的な改革の一つとしては、「予防」が挙げられます。そのためには、最もシンプルに考えて、皆が健康になっていく必要がある、ということです。「予防」というのは、意識して取り組まないといけないことで、ついつい後回しになりがちです。なぜなら、比較的健康な時に取り組むことが「予防」になるのですが、人間は悪くなってから行動をする方が多いからです。
今回は、運動と「持久力・骨密度」の関係性について勉強していきます。
■持久力について
基本的に、年齢と共に持久力は落ちていき、この絶対的な傾向を止めることはできません。しかし、運動を行うことで、低下の速度を遅くしたり、今現在よりも改善することは可能です。結果として、適切な運動を行えば、実年齢よりも若い人達以上の持久力を手にすることは可能です。(図1 最大酸素摂取量)
持久力は様々な指標がありますが、VO2Max(最大酸素摂取量)が良く使われる指標です。加齢によって、最大酸素摂取量は下がりますが(20歳以降、毎年1%ずつ下がると言われています)、その原因として運動不足と体脂肪率の増加が挙げられています。つまり、運動を行い、体脂肪率の増加を防ぐことができれば、最大酸素摂取量の低下は、ある程度防げるということです。
ただ、体を鍛えている人の方が最大酸素摂取量の低下が著しいという報告もあります。これは、矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、「運動をしている方が最大酸素摂取量は高いが、前述したように1年で1%ずつ低下していった場合、下がり幅は最大酸素摂取量の高い方が大きくなる」ということです。
■骨粗しょう症のリスクについて
(図2 骨粗しょう症)
特に50代以降の女性に多い骨粗しょう症ですが、骨折の大きな原因となります。骨粗しょう症はエストロゲンの分泌と関連しています。
(図3 年齢とエストロゲンの減少)
エストロゲンは、破骨細胞の活動を抑制する効果があるため、エストロゲンの分泌が減ると破骨細胞の活動が活発化し、その結果骨粗しょう症になりやすくなります。
基本的に思春期あたりで高い骨の重さを得ることになり、緩やかに25歳くらいまでは骨の重さは増加していきます。この期間に運動をしておくことが、後の骨密度と関連してくるので、予防の観点においても、10代~20代半ばの運動とカルシウム摂取は重要になります。カルシウムは毎日1200~1500mg摂取することが、高年層にとっては大切になります。
運動は、骨に適度な振動を与えることが重要になります。もちろん衝撃が強すぎれば、逆に結合組織を損傷させる危険性がありますが、全く衝撃が無いと、骨を強く保つのが難しくなります。例を挙げるのであれば、無重力空間で生活する宇宙飛行士にとっては、骨粗しょう症は大きな問題となります。また、水泳などの衝撃が少ない運動を行っても骨密度を維持することにはあまり役立たないことが知られています。
関節炎を伴うと関節に衝撃をかけることが難しくなり、運動不足に陥りやすくなりますが、しっかりと骨に衝撃を与えることも重要なため、この辺りのバランスを保ちつつ運動を行うことが重要になります。
運動を行う際は、単に歩いたり自転車に乗ったりと同じ運動の繰り返しよりは、様々な種類の筋肉を使う運動を選択することが大切になります。また、長く1回の運動を行うよりは、1日の中で2~4回に分けて行うほうが、骨の密度を向上させる可能性が高いとの報告があります。
自転車や水泳などは、骨折からの回復時や関節炎に伴う痛みがひどい時に選択すると良いでしょう。1週間に2~3時間の運動が、高年層の目標として掲げられています。
■まとめ
これらのことをまとめていくと以下のことを実践すると良いと思われます。
• 1日10分の運動を朝・昼・晩に分けて行う。
• 朝・昼のどちらかは、外でのウォーキングを行う。
(日光からビタミンDを摂取することでカルシウムの吸収率を上げる)
• 可能であれば、グループでの運動も週に1度は行う。(例:テニスなど)
• 柔軟性や筋力の向上も試みる。
ここに書かれているガイドラインは、健康な人達にとっての最低レベルと考えてください。逆に、現在運動機能に問題のある方にとっては、目標となるレベルになります。
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(文責:Dr Hanatsu Nagano)
Rubin, CT., Lanyon, LE. 1985. Regulation of bone mass by mechanical strain magnitude. Calcified Tissue International, 37: 411-417.
Smith, EL., Gilligan, C. 1987. Effects of inactivity and exercise on bone. The physician and Sportsmedicine, 18: 314-317.