私のミッションの核になるものに、シニアの方たちの歩行能力の改善があります。
そして、そのためには、まずは歩行能力を適切に評価する必要があります。
これから様々な簡易評価方法を紹介していきたくは思いますが、今回は第一弾として、脳と脊髄に問題があるかどうかを診断する簡単な方法をお伝えします。
普通に歩くことはできても、実は歩行障害の予備軍である場合もあります。それを早期発見して対応していくことが、望まれる対策となります。
この方法は、色々なオプションをつければ、より様々な評価が可能となります。
皆さんは、デュアル・タスクという言葉を聞いたことはありますか?
日本語では、二重課題・多重課題(multiple task)などとも言われています。
デュアル・タスクとは、二つのことを同時にすることになります。
これを歩行時に行うと・・・普段見えなかった弱点が浮き彫りになることがあります。
簡単にできる診断方法なので、危険には十分注意したうえでご活用いただきたく思います。
今回の論文は、オープンアクセスなのでダウンロード可能です!
Auvinet, B., Touzard, C. Montestruc, F., Delafond, A., Goeb, V. 2017. Gait disorders in the elderly and dual task gait analysis: a new approach for identifying motor phenotypes. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation, 14 (7).
■中枢神経の問題による歩行能力の低下
70歳以上の約35%、80歳以上の72%が何かしら歩行障害を抱えていると言われています。それによって、普段の生活を送るのが難しくなり、転倒による怪我や入院のリスクも高まってしまう傾向にあります。これらの原因は、下肢などの物理的な衰えが原因となることもありますが、中枢神経系(脳・脊髄)の問題による場合もあります。
例えば、65歳以上の25%は、何かしらの認知障害(軽度認知障害も含む)を抱えていると言われています。歩行においては、様々な脳の領域が共同で働いて行われていることから、認知力の低下などと同時に歩行能力の低下が起こることも多々あります。普段、認知力や歩行能力に問題が見られない人でも、中枢神経にわずかな問題を生じている場合、デュアル・タスクを行うのが難しくなるという報告があります。つまり、デュアル・タスクを課したうえで歩行パターンを見ると、その人が中枢神経に問題を抱えているかどうかの目安になる可能性があります。
■歩行パラメータの選び方
中枢神経系の問題が反映される歩行パラメータは多岐にわたりますが、この研究では「ペース・リズム・変動性」の3つに絞って実験を行っています。「ペース」とは歩行速度のこと、「リズム」とはケーデンス(1分で何ステップするか)、「変動性」とは同じ歩行パターンを維持できるかどうか、を意味します。デュアル・タスクは「50,49、48・・・」50から逆に数えていくことと、歩くことを同時に行うことです。
デュアル・タスク歩行を行うと・・・
デュアル・タスク歩行を行うと、歩行速度が下がります。そして、歩行の変動性が上がります。つまり、ゆっくりと歩き、常に同じ歩き方を維持することが難しくなるのです。これらは、「物忘れの多い人達・歩行が安定しない人達・何度も転倒する人達・虚弱な歩き方をする人達」において、共通して見られた傾向でした。つまり、普通に歩いていて問題が無い人は、デュアル・タスク歩行を行って「ゆっくり歩きになって、一定の歩き方ができないかどうか?」を確認してみると良いでしょう。ただし、このテストを行うことは、若干の危険を伴う可能性があるため、十分に注意して行いましょう。
■さらなるデュアル・タスク
今回の論文で紹介したデュアル・タスクは比較的シンプルなものですが、難易度を上げることは可能です。良く使われるものとしては、「計算を行いながら」というものです。例えば、「200から7を引き続ける」などのタスクを課すことで、単に50を逆から数えるよりも段違いに難易度は上がります。あとは、例えば水をたくさん入れたコップを持ちながら歩くなども注意分散力を要するために多重課題性があります。もっと簡単な方法としては、会話をしながら歩くこともデュアル・タスクになります。歩行能力が低下した人に話しかけると、立ち止まってから応答することが多々あります。これは、デュアル・タスクを回避していると考えることができます。こうした理由から、例えばトレッドミル歩行を行いながら、デュアル・タスクを行うのはかなり危険を伴います。相当な安全確保の対策をしていない限りおススメはできません。昨今では、「歩きスマホ」などが問題として挙げられていますが、これもデュアル・タスクにより歩行力が落ちて転倒したり、ぶつかったりすることが若年者においても起こることがあるからです。
このようにデュアル・タスクは、普通に歩ける人達が、歩行障害のリスクがあるかどうか、予備軍かどうかを判断するのに役立つコンセプトです。そして、十分に注意は必要ですが、こうしたデュアル・タスク性をトレーニングすることは、脳機能の改善とそれに伴う歩行能力の改善にも繋がることが期待されます。
最後に・・・
ISEALインソールのご活用もご検討ください。これは、履いているだけでバランスを向上させる機能があるので、デュアル・タスクを含む歩行機能の低下をカバーする効果があります。
(文章:Victoria大学 長野放博士)